「閉経前」乳がんのホルモン療法

乳がんのホルモン治療は、乳がんの再発危険性が半分程度に減る、非常に有効な乳がんの治療法です。女性ホルモンの受容体をブロックして、乳がんの再発効果を発揮します。代表的なのはノルバデックス20mgという薬です。他に、有効成分であるタモキシフェンを含む後発品が複数あり、薬価は安いですが、製剤の安定性や体内での薬の代謝のされ方、また効果が本当にノルバデックスと同じ程度の乳がん再発抑制効果があるのか検証されてないものもあり注意が必要です。

「えーっ、5年間ものまないといけないのですか。」といわれることがあります。もっともなお気持ちと思いますが、1年より2年、2年より5年の方が乳がんの再発をおさえる力が強いことが証明されています。 さらに長期の投与はどうでしょうか。タモキシフェン5年と10年の乳がん再発抑制効果が比較されています。研究に含まれていた乳がん患者さんのほとんどは閉経後の乳がん患者さんでしたが、閉経後の乳がん患者さんと閉経前の乳がん患者さんで効果はほぼ同じでした。結果は、10年で5年よりも乳がんの転移を10%抑える効果があり、乳がん死亡を17%抑える効果がありました。例えば、乳がんの転移の危険性が20%ある人は18%まで下がり、乳がん死亡の危険性が10%ある人は8.3%に下がります。

さて、タモキシフェンの乳がんの再発を抑える効果はお分かりいただけたと思いますが、副作用も気になりますね。よくみられる副作用は、顔がほてったり、発汗、月経不順などの更年期障害に似た症状や、おりものの増加や不正出血です。飲み始めがしんどい方がおられますが、数週間~数ヶ月で慣れることが多いです。ただ、なかにはうつ症状を訴えられる方もおられ、注意が必要です。 服用が長期にわたると、血が固まりやすくなる血栓症が増加します。また、子宮体がんの増加しますが、実際にかかる人は非常にまれです。日本の婦人科の学会では、子宮体がんについて定期的な検査を受けるようにガイドラインが出ていますが、医学的な根拠は薄いようです。 米国のガイドラインでは、不正出血の症状があったときにのみ検査をすすめており、こちらのほうが科学的根拠があると考えられます。
以上のような副作用に対して、よい作用として骨塩量を増やして骨折を予防する効果があります。また、反対側の乳房に新たな乳がんができるのを抑える作用があります。

全体としてみれば、副作用よりも、乳がん再発予防というメリットの方がはるかに大きいのです。また、すべての人に副作用が出るわけではありません。副作用が強く出た場合は、担当医と継続するか中止するかをよく相談しましょう。


もう一つの標準治療、「卵巣機能抑制」

ゾラデックス(12週毎)かリュープリン(24週毎)を皮下注射します。治療を開始した次の月経は来ますが、その次の月から月経が止まります。 治療期間は、2年以上5年までですが、2年と5年の乳がん再発抑制効果を比較したデータが無く、最適な期間はわかりません。 治療終了時点で閉経していなければ、数ヶ月(人によってはもう少しかかります)で月経が再開します。


タモキシフェンと卵巣機能抑制はどう使い分けるのか

「閉経前」の乳がん患者さんに、タモキシフェンと卵巣機能抑制剤が乳がん再発予防に重要なお薬であることはお分かり頂けたでしょうか。次にその使い分けについて、説明します。

重要なのは、タモキシフェンです。非浸潤がんと乳がんの再発リスクがごく低いかたを除いたほぼすべてのホルモン感受性のある乳がん患者さんが、タモキシフェン5年服用の対象です。乳がんの転移・再発リスクの高い方には、抗がん剤治療の後に、タモキシフェンが処方されます。

ゾラデックスまたはリュープリンをタモキシフェンと一緒に使うと、乳がんの再発割合が24%ほど減り、生存率も33%ほど延びますが、乳がんの再発リスクが低い人には骨が弱くなるというデメリットの方が大きそうです。リンパ節転移が多いなど乳がんの再発リスクが高い人には有効だと思います。

ゾラデックスまたはリュープリンとアロマシンというお薬を使うと、より乳がん再発抑制効果が高くなるという結果もありますが、どの組み合わせがベストかは、乳がんの状況や患者さんの治療の好みによっても変わるので、担当医とよく相談してください。


閉経前ホルモン感受性乳がんの標準治療例

  • タモキシフェン5年間(~10年間)
  • 抗がん剤+タモキシフェン5年間(~10年間)
  • ゾラデックスまたはリュープリン2~5年間+タモキシフェン5年間(~10年間)