乳がんの診断の進め方

しこりがあった場合の一般的な診断の進め方について説明します。診断はいくつかの検査の結果を照らし合わせて行います。 なぜ複数の検査が必要になるのでしょうか?それは、それぞれの検査には強みと弱点があるからです。ひとつで全てのことが判断できるような「万能の検査」は、残念ながら現在ではまだありません。 診断するということは、からだの表面からはみえない「しこり」の性質を判断しようとすることですから、複数の検査を照らし合わせて、慎重に診断する必要があるからです。

診察時にはまず、視触診を行います。(1)しこりの場所・大きさ、(2)皮ふのへこみ、(3)皮ふの赤み、(4)乳頭分泌、(5)わきのリンパ節の腫れなどをチェックします。
検査として、(1)マンモグラフィ、(2)超音波検査(エコー)、(3)細胞診または組織診を行います。

病理検査について

しこりが乳がんか診断するために最も重要なのは、病理検査、すなわち細胞診や組織診(針生検)です。
マンモグラフィーや超音波検査で「乳がんかどうかはっきりしない」場合でも、病理検査で「悪性=乳がん」と診断されれば、これを根拠として乳腺外科で手術をします。
ただ、検査でとれるサンプル(組織)の量が限られているので、乳がんかどうかの診断が難しい場合があります。

また、乳がんとまではいえない「灰色」という場合もあります。ふつうは「良性」か「悪性=乳がん」か、「白」か「黒」かわかるのじゃないか、と思われるでしょうが、単純にいかないこともあります。
その場合、乳腺外科でしこりを部分的あるいは全部切除して、「良性」か「悪性=乳がん」か、診断をすることがまれにあります。
「私は細胞診で乳がんといわれたけど、知り合いは組織診(針生検)で乳がんといわれたし、どう違うのかしら」と思われる方がおられるかもしれません。

細胞診と組織診はどう違うのでしょうか。麻酔が必要ではない簡便な「細胞診」をまず行い、場合により「組織診」を追加することが多いのですが、より確実な診断ができる「組織診」をはじめから行うこともあります。


細胞診

患者さんにベッドに横になっていただきます。手や超音波検査でしこりを確認しながら採血に使う細い針で刺し、注射器で吸引して、細胞を採取します。
麻酔をしないので少し痛みを伴いますが、診察の場で簡便にできます。ただ、細胞がバラバラに取れてくるので、組織診より診断が難しい場合があります。結果が出るまで数日から一週間かかります。

しこりの全てが乳がん細胞ならば、乳がん細胞がたくさん取れるので、乳がんという診断は難しくありません。ただ、例えば「硬がん」という乳がんは、乳がん細胞が少なかったり、乳がん細胞と正常細胞が見分けにくく、乳がんと診断されにくいことがあります。

「乳頭腫」という良性のしこりは、細胞診はもちろん組織診でも診断がむつかしく、手術で摘出した組織(標本)でも乳がんと鑑別が難しい場合もありえます。
「線維腺腫」という良性のしこりは、細胞診では時に「悪性=乳がん」という結果がでるため、注意が必要です。
授乳中の場合も、乳がんかどうか診断が難しいことがあります。

マンモグラフィや超音波検査の結果が乳がんに特徴的で、細胞診も「悪性」ならば、「乳がん」でまず間違いありません。ところが、細胞診が「悪性」でも、マンモグラフィや超音波検査で乳がんといえない場合は、細胞診が間違っている可能性を考えなければならないのです。


組織診

局所麻酔で、細胞診より太い針で組織をとる「針生検」と、特別な器械を用いる「吸引式針生検」があります。

針生検では、しこりを組織のまま観察できるので、細胞診より乳がんの診断がはっきりします。
患者さんにはベッドに横になってもらい、しこり周囲に局所麻酔をします。そして皮膚に数mmの小さな切開(切り傷)をいれますが、しばらく(数週間~数ヶ月)すると目立たなくなります。

超音波検査でしこりを確認しながら、針で組織をとります。外来でできますが、気胸や出血などの合併症がおこった場合には、入院を要することがまれにある、とされています。検査結果が出るまでに約一週間ほどかかります。