乳房再建について知っていますか?

岩平先生が執筆された「乳房再建について知っていますか?」のパンフレットに基づいて乳房再建術についてご説明いたします。

乳房再建をするには大きく2つのことを考えることが必要になります。 1つ目は、失った乳房を新たな《何》で補おうと考えるのか、2つ目はそのための手術を乳がんの手術の際に同時に行うのか、乳がんの手術とは別の時期に行うのか、です。

乳がんの手術と再建術を同時に行うのか、時間をおいて行うか

まず、乳房再建の手術を、乳がんの治療の際に同時に行うのか、乳がんの手術とは別の時期に行うのかについて考えてゆきます。 乳がんの手術の際に同時に再建術を行うことを一次再建といいます。乳がんの治療のあとしばらく時間をおいてから、再建術を行うことを二次再建といいます。 一次再建と二次再建の違いには下記のようなものがあります。

一次再建乳がんの手術の際に同時に再建術を行う
  • 「乳房を失ってしまった」精神的につらい体験を避けることが出来るかもしれない
  • 手術の回数は二次再建に比べて少ない
  • 健康保険の適応がある場合がある
  • 入院期間が乳がんの手術だけの場合に比べて長くなる
  • 手術後の治療の必要性に応じて、一次再建はすすめられない場合がある
  • 手術に伴う侵襲が大きく、合併症(出血、感染など)のリスクが二次再建より高い
二次再建乳がんの治療のあとしばらく時間をおいてから、再建術を行う
  • 「乳房を失ってしまった」精神的につらい思いをする時期がある
  • 手術の回数が一次再建にくらべて増える
  • 人工物を用いる場合は、健康保険の適応外となる。自分の組織を用いて移植する場合は健康保険の適応となる。
  • 再建についてゆっくりと考え、相談できる
  • 手術に伴う侵襲は比較的小さく、合併症(出血、感染など)のリスクが一次再建より低い

失った乳房を新たな《何》で補おうと考えるのか

失ったふくらみ(乳房)を新たな《何》で補おうと考えるかについて考えてゆきます。 その種類には3種類のものが考えられます。

人工乳房を用いる
組織拡張器(ティッシュ・エキスパンダー)+人工乳房(ソフトコヒーシブシリコン)による再建
手術の適用
皮下乳腺全摘出術 乳房切除術
メリット
入院期間が短い、あるいは外来での手術が出来ます。 からだへの負担は3つのなかで一番軽いでしょう。からだの新しい場所に傷を作らなくて済みます。うまくいかない場合でも、何回かトライすることが出来ます。
健康保険の適応となります。
デメリット
人工乳房を用いるので、反対側(手術していない方)の乳房とまったく同じ形やサイズにするにはおのずと限界があります。放射線治療をうけた場合、皮膚の伸展が十分にはできない場合があり、リスクが高くなります。炎症や感染の可能性がありますが、特にエキスパンダー挿入中には深刻になりやすいでしょう。被膜拘縮(硬く変形したり痛みがある場合も)がおこることがあります。加齢による乳房の下垂などの問題については、その時期に再度手術する必要があります。

極めてまれですが、インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫という合併症があります。インプラント挿入10 万例当り、年間0.1 ~ 0.3 件の発生と推定されています。米国形成外科学会の報告では、米国における生涯罹患リスクは、1/30,000と推察されていますが、日本の乳がん患者さんでの発生率は現在のところ不明です。多くは局所治療(完全被膜切除とインプラントの抜去)のみで軽快し、化学療法や放射線療法は要さないとされています
自分のからだの他の部分(通常は、腹部や背部)から、皮膚や脂肪、筋肉を移植する自家移植
手術の名前
腹直筋皮弁
手術の適用
乳房切除術 人工物をもちいることに抵抗感があるケース
メリット
放射線治療をうけていても、うまく移植、形成できればやわらかく自然な感じになります。 健康保険の適応となります。
デメリット
比較的大掛かりな手術となり、術後の安静などもあって入院期間は2~4週間必要になります。腹部の手術を受けたことのある方、妊娠出産を希望される方などはこの手術はできません。腹部には横に横断する大きな傷が残ります。痛みやひきつれ感などが回復するには長い時間がかかります。移植した皮膚や脂肪の血流が悪い場合には一部やすべてが壊死(組織がうまく生着しない)ことがおこります。基本的には何度も行える手術ではなく、そのチャンスは一回となります。
人工乳房と自分の組織(自家移植)の併用
手術の名前
広背筋皮弁
手術の適用
放射線の治療をしたケース(エキスパンダーでは十分な伸展が出来ないケース) 乳房温存術
メリット
腹直筋皮弁にくらべると入院期間は短くなります。 健康保険の適応となります。
デメリット
広背筋の一部だけでは、十分なふくらみをつくることは難しいために、人工物を併用する必要があります。また筋肉は、廃用性萎縮といって小さくなってしまうために人工物を併用する必要があります。背部には比較的大きな傷が残ります。痛みやひきつれ感などが回復するには時間がかかります。基本的には何度も行える手術ではなく、そのチャンスは一回となります。

手術の方法(人工乳房)

まず、大胸筋の下にしぼめた風船状態の組織拡張器(ティッシュ・エキスパンダー)を挿入します。

エキスパンダーに生理的食塩水を入れて手術は終了します。


エキスパンダーをいれた手術後1ヶ月後から、皮膚をしっかりと伸ばすために生理的食塩水をエキスパンダーに注入してゆきます。

針をさして注入しますが痛みはありません。反対側(手術していないほう)の乳房の大きさにもよりますが、反対側の乳房より1.5倍程度大きくなるまで膨らませます。

この間、日常生活での制限はありません。エキスパンダーには小さな金属板が入っているためMRIの検査はこの時期には受けることができません。 エキスパンダーをいれる手術をしてから約8ヶ月以上してから次の手術を行います。


エキスパンダーを取り除いて人工乳房(ソフトコヒーシブシリコン)を挿入します。

極めてまれ(数十万人に一人)にリンパ腫を発症する危険性が報告されています。


手術の方法を決断する前に

これらのどの種類をもちいて再建術を行っても、感染や炎症をおこすといった問題があります。加齢による乳房の下垂などの問題については、その時期に再度手術する必要がある場合もあります。 また手術していない方の乳房とまったく同じサイズや高さ、質感の乳房を作ることはそもそも難しいことです。 放射線治療をうけた方の場合は、再建術ができない、ということはありませんが、非常に難しく様々なリスクも高くなります。また美容上にも問題がでる場合があります。


乳頭・乳輪の移植や再建

いずれかの方法で手術した側のふくらみをつくってから、乳頭・乳輪の移植や再建などを行います。

乳輪の再建には、(1)tattoo(刺青)を用いるもの(2)手術していない方の乳房の乳輪からの移植(3)そけい部(足の付け根)部分の皮膚の移植があります。(2)や(3)の皮膚の移植の場合には健康保険が適応されますが、(1)の場合は健康保険は適応されません。

乳頭の再建には、(1)手術していない方の乳房の乳頭からの移植、と(2)局所皮弁法があります。乳頭の再建は、健康保険が適応されます。 乳頭・乳輪の再建は、短い外来でできる手術となります。どの方法が適しているのかについえは、お一人お一人により違いますので、十分に相談して決めてゆきましょう。